刻は日暮れ。深くて深くて、暗い森の中。
風を切るように、その森を駆ける一団がいる。
先頭を走るのは黒い鎧、黒い髪、縁取りとクロークの赤が映える傭兵隊長。
併走するのは槍を構えた刈り上げた銀髪の重戦士。
緑のスカートを翻す赤毛の戦乙女。
少し後ろを、森に紛れるような黒外套に黒頭巾。
最後尾を揺れる金髪、ローブは桜。
この並びに意図は無い。ただ彼女が追い切れない。
けれど彼女は知っている。
前の四人が歩調を合わせているのは自分ではない。
彼らの後に続のは音。からからと鳴る音。
どこから湧いたとも知れぬ骨、骨、骨、骨。
それらから『本気で』逃げてるのは彼女一人だ。
「しっかし憑いて来ますね連中」
「陣中突破されたら沽券に関わるって所かねぇ」
どうして平気なのだろう。
どうして余裕なのだろう。
解っている。
彼らにとってアレは『モンスター』でしかないのだ。
けれど彼女にとってアレらは、武器を手にした『人』なのだ。
森はかつての砦跡。
追いすがる骸はかつての騎士、いや、今も。
それを『直接』聞き、伝えたのは他ならぬ彼女。
霊感の強い彼女にとって、彼らは『生きた人』と何ら変わり無かった。
彼らが『騎士』で良かったと思う。
彼らの支えが『誇り』で良かったと思う。
もしあの日のような『場当たりの殺意』を向けられたら……。
そこまで考えて止める。
前を走る仲間は、そんな相手をきっと何人も相手にしてきただろうから。
そんな事で怯んではいけない。
足を竦ませてはいけない。
自分もその一人だから。
でなければ、あの人について行けなくなる。
森の向こう、赤い旗が見えた。敵の陣営。
これから一戦交える彼らは『どちら』だろうか。
傭兵団は振り返る事無く敵陣へ突き進む。
五人など一捻りで終わりそうな軍勢。
けれど、その背後に多数の、練度の高い騎士が続いていたらどうなるだろう。
それを利用しようとするあの人は、ちょっと酷いと思ったけれど。
かつて砦を焼いた大国の旗は、色は、当時から何も変わっていなかった。
周囲をふわりと光が舞う。走り通した足が軽くなる。
先に待っていた、こちらの陣営による支援の魔法。
「行くぞーっ!!」
「英霊よ、我に力を!!」
「奴らにこれ以上の蹂躙を許すな!!」
「突撃ーっ!!」
雇い主から与えられたのは魔術師と猟兵が数名。
けれど、彼女の背を押したのは数名ではあり得ぬ覇気。
森に、金色の旗が立った。
――あの傭兵に、怖い物は無いのか?
僅かな手勢(+α)で大国の部隊を退けた彼らの評価は、案の定二つに割れた。
死者の冒涜と取るか、荒っぽい供養と取るか。
どちらにせよ、ささやかな宴を開くに足る功績には違いなかったが。
けれど、その中の今回の立役者たる傭兵隊長の姿は無かった。
皆が勝利に酔いしれる中、彼女は彼を捜す。
美味しそうな手羽先のフライをこんもり盛った皿を手に。
尋ね人はあっさり見つかった。テラスで静かに飲んでた。
宴のざわめきはすぐそこ。
彼女に気付くと、軽く挨拶をする。
「や」
「行かないんですかぁ?」
「どうもああいう席は苦手でね」
そう尋ねた時、彼は少し視線を泳がせたのを見逃さなかった。
「骸骨さんは平気なのにですか?」
「お前が教えてくれたんだろう。彼らは騎士で、援軍を待っていた」
確かにそう。
現に、彼らは非武装の者を手にかけはしなかった。
たいていの人は、そうと気付く前に悲鳴を上げて逃げるけど。
「そこをわざわざ引っ掻き回した人にも、あるんですねぇ……苦手なもの」
「……お前も、結構言うんだな」
隊長はそう溜息をついて、手羽先をひょいと取る。
「まぁ、駆け出しの頃もみくちゃにされて、それ以来、かな」
視線が、また泳いだ。
彼を捜す声がする。ほんの少し、彼が外側へ動いた。
だから彼女も、外から見えない場所に、彼の側へ寄る。
……野営や街を散策している時より、気配のようなモノが硬い気がした。
彼の苦手は、ひょっとしたらそのずっと前からかもしれない。
けれど今は、何も聞かず黙って並んでいようと思った。