その曲芸飛行士のエアショーは見事なものだった。
模擬戦を申し込んだのは単純な好奇心からであり、断られても良いと思っていた。
「ソロン、やる?」
申し出は受け入れられた。但し、相手は代打。下手に断るより腹が立つ形で。
8月の寒空の下、黒いコートと鋭い空気を纏った黒髪の男。
そんな雰囲気と裏腹に自分の名前を呼ばれた事にさえ気付かないような男だった。
「ブランクは無いはずだよね」
呼ばれた当人がその非礼に気付いてパイロットを諫めようとした事も、慰めにはならなかった。
(ガキだと思ってなめやがって!)
仕事を終わらせた相手にいきなり勝負を申し込んだ自分の不躾も忘れ、代打に指名された男を睨み付ける。
「はぁ……どうする?」
見ているこっちが申し訳ないような顔をしているのが余計に腹立たしい。
よく見ると男のこめかみからは白い筋が一本走っていた。
(苦労してんのかな)
もちろん、苛立ちを押さえる理由にはならない。
「良いでしょう。受けて立ちます」
慇懃無礼な振る舞いをする事に決めた。
「その代わり、勝ったら改めて勝負して頂きますのでそのつもりで」
「いいよ」
頭上にいるのが、年齢不詳だが経歴を見れば30は堅い男には見えなかった。
フライトスーツを着て現れた代打の男も、見た目より年なのかもしれない。
(最強のエアショーパイロットの鼻をあかしてやる!)
3メートル近い高さかさのコックピットから着地して見せた憧れの対象をきつく睨んで、タラップを昇った。
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結果は言うまでもなくヽ(´ー`)ノ
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