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竜と巫女 

 昔々あるところに、ちいさな村がありました。
 村は暖かく豊かな土地でしたが、その為に魔物も多くいて、
 収穫期になると魔物退治に四苦八苦していました。
 それが村人達の唯一の悩みでした。

 ある日、村の近くに白い竜が住み着きました。
 その竜の目当ては村の近くにたくさん居る魔物でした。
 収穫期になるとこのあたりに増える事を知って、
 その間はここにいようと決めたのです。

 村人達は喜びました。
 毎年何人も、魔物のせいで帰らぬ人になっていたからです。
 収穫期に森に入れるようになったのも初めての事でした。
 そこで、村人達は森で取れた果物をお礼に供えました。
 最初は何だろうと思っていた竜ですが、
 大好きな果物は、竜の大きな手では取りにくかったもので、
 せっかくなのでと頂きました。
 魔物がいなくなると竜もいなくなりました。

 翌年の収穫期にもまた魔物がやってきました。
 もちろん竜もやってきました。
 その度にお礼の果物をお供えしました。
 豊作の年には牛をお供えしたりもしました。
 竜にも、それは自分が魔物を退治してるおかげだと解ってきました。
 そうしてこの村で、竜は神様の使いになりました。

 所がある年、酷い日照りに見舞われました。
 田畑は枯れ、果物も実らず、なのに魔物はやってきました。
 もちろん竜もやってきました。
 竜は魔物を退治してくれましたが、お礼の作物と果物がありません。
 牛も残ったのは乳牛一頭で、村はギリギリの状態でした。
 困り困った村人達、とうとう人身御供を差し出すことに決めました。
 選ばれたのは村では変わり者の娘でした。
 見えない何かと話をし、夜になると近くがぼんやりと光る不思議な娘でした。

 村人達の心配を余所に、娘は自分から人身御供に申し出ました。
 果物の代わりに彼女を置いて、村人達は帰っていきました。
 困ったのは竜の方です。
 どうして娘を置いていったのか全く解らなかったのです。
 長く村に通い続けて、竜は人を好きになっていました。
 食べる気なんてありません。
 娘も帰るわけにいきません。
 悩み悩んだ一人と一匹、仕方がないので一緒に余所へ行きました。

 竜と娘は半年の間に世界中を回りました。
 その間、竜は狩りで肉を集め、娘は森で果物をあつめました。
 鱗の間に小さな棘が挟まって竜が困っていたときは、
 娘が取って上げました。
 たまに失敗して鱗が一枚こぼれ落ちる事もありましたが、
 娘はそれをお守りにとっておきました。
 すると、街道沿いで出会った商人に、
 鱗を譲ってくれと頼まれました。

 家畜をさらう悪い竜もたくさんいて、
 追い払うのがやっとだったので、鱗は今よりずっと高価なものでした。
 鱗と交換に、娘は服と本を買いました。
 挿し絵がちょうど、村にいたころ話していた見えないものそっくりだったのです。
 本を読んで娘は魔法を覚えました。
 あの村には、いいえ、村のある国には、魔法使いがいなかったのです。
 ちょっとした怪我ならすぐ治せるようになりました。
 熱い場所でだしてくれる氷をかじるのが竜の楽しみになりました。
 同時に、零れた鱗を持って街に買い物にいくようにもなりました。

 村ではまだ不作が続いて、とうとう魔物もやってこなくなりました。
 それを知った娘は貯まった鱗を全部食べ物に買えて、
 いつもお供えしている場所においてきました。
 また竜がやってきたと思ってそれを見た村人は、
 喜んで食べ物をもって帰りました。
 それを見て、娘と竜はこっそり村を後にしました。

 広い草原に、牛や馬達と一緒に暮らす遊牧民がいました。
 牛や馬の世話をしながら、狩りをして暮らしていました。
 その中の一人に、青いスカーフを巻いた青年がいました。
 いつものように狩りにでかけ、近くの湖畔に向かっていました。
 ですが、その日は湖畔に竜がいたのです。
 大きくて立派な、白い竜でした。
 青年は緊張した面もちで矢を構えます。
 遊牧民にとって竜は牛をさらっていく困りものだったのです。
 ちょっとした相手なら何度も追い払った事がありました。
 時には一頭を射落とした事もありました。
 ですが、その竜は今まで見たどの竜よりも大きくて立派だったのです。

 ゆっくりと距離を詰める青年の目に、あるものが飛び込んできました。
 自分とさほど変わらない年の娘が竜の影で水浴びをしていたのです。
 それを見て呆然となった青年。
 構えた弓はいつの間にかだらりと下げて、その様子を見てました。
 すると竜に気付かれ、慌てて逃げようとした青年、
 娘にも見つかって魔法のツタでぐるぐる巻きにされていました。
 それで事なきを得た青年、
 竜と一緒に暮らす娘と彼女の見てきた世界に興味津々。
 娘も初めての友人に、今まで見てきた街の事を話し、
 同時に青年の暮らしもあれこれ聞いてきました。

 そして楽しい時間はすぐに過ぎ、
 青年はまだ今日の獲物を仕留めて無いことに気が付きました。
 楽しい時間のお礼にと、竜と娘が狩りを手伝ってくれました。
 その日はいつもの半分の時間で、倍の獲物がてにはいりました。
 しかし青年は少し考えると獲物の半分を竜に分け、
 狩りの仲間が使う笛を娘にあげました。

 その翌年も娘と竜は草原にやってきました。
 異国のおみやげとお話を沢山持って。
 所が、笛を吹いても返事がきません。
 それどころか、集落のテントも酷い有様です。
 何事かと思って上を飛んでも、誰もでてきません。

 それでも笛を吹き続けると、
 集落からずっと離れた所から笛の音が聞こえてきました。
 少し離れた小高い丘の上で青年が笛を吹いていたのです。
 黒い竜がやってきて、牛や獲物を根こそぎ奪っていったので、
 これから退治しにいくところだと言うのです。
 娘は止めました。
 青年の体は傷だらけで、弓もいつ折れるかという状態だったのです。
 そして娘はどんなに止めても行くと言い張る青年に、
 とうとう自分と竜が代わりに行くと言い出したのです。
 これには青年も驚いて、必死に止めました。
 ならばまずは手当が先と、青年を連れて集落へ向かいました。

 実はこれ、賢明な判断でした。
 青年が追っている事を知った黒い竜は、
 草原中を飛び回って疲れさせようとしていたからです。

 そうなると困ったのはこっそりその様子を見ていた黒い竜。
 人間の足ならどうということはなくても、
 竜の翼が相手では疲れさせるのは無理だと思い、
 その場で勝負を挑んできたのです。
 迎え撃ったのは白い竜。娘も青年も魔法と弓で戦いました。
 二人と一匹は力を合わせて、とうとう黒い竜を押さえつけてしまいました。
 力に自信のあった黒い竜、竜の言葉で言いました。
「小さな人間の力を借りたんだから勝ったうちには入らない」
 白い竜は答えます。
「お前はその小さな人間、たった二人の援護に負けたのだ」
 それを聞いて我慢ならなかった黒い竜、
 集落を襲わない事を条件に、来月改めて勝負したいと言い出しました。
 白い竜は快く引き受けました。

 それから一ヶ月の間、白い竜は集落の人達の為に働きました。
 黒い竜は来月の勝負に供えて魔物を食べて鋭気を養ってました。
 そして人々が見守るなか、黒い竜と白い竜の勝負が始まったのですが、
 二頭はいつまでたっても動きません。
 白い竜は平然としていましたが、黒い竜は動こうと必死になっていました。
 そんな状態が日暮れまで続きました。
 夜も更けた頃、黒い竜は自分の足に光るものが巻き付いてるのに気付きました。
 娘と暮らしてる間に、白い竜も魔法を覚えていたのです。
「これも元は人から教わったちからぞ」
 そう言われた黒い竜、さすがに降参してしまいました。

 黒い竜はもう悪いことはしないと聞いて、集落ではお祭りです。
 娘と白い竜は大いに感謝されましたが、
 この時、白い竜には試してみたい事がありました。

 それは祭りも終わりを迎えた頃の事。
 娘の耳元で、白い竜は囁きました。
「私はまた余所へ飛び立とうと思う。君は仲間と一緒に暮らすといい」
 娘と一緒にいるうちに、人の言葉を覚えていたのです。
 驚いた娘は言いました。
「私は一度捧げられた身。どこに行くにも一緒です」
 それを聞いた白い竜、娘と一緒に飛び立ちました。

 それに気付いた青年、慌てて後を追いました。
 一人立ちの年になったなら、娘と一緒に行こうと思っていたからです。
 所が、人の足では竜の翼には追いつけません。
 それを見ていた黒い竜、途方に暮れる青年を捕まえて、
 白い竜を追いかけていきました。
 黒い竜の起こした風が、青年の笛を鳴らします。
 笛の音がお互いを引き合わせ、
 二人は二頭の竜と一緒に世界を巡る事になりました。
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[ 2006/09/22 14:31 ] 創作小説 | TB(0) | CM(0)
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