FC2ブログ

結局…… 

無駄に手間暇掛けてかいてみましたっていう。
黒獅子のレーヴェ

厨二病高二病どんとこいな人は続きからどうぞ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
 彼の騎士は、己が物語の始まりをあまり語ろうとはしなかったという。
 余りに多くの歴史がその下にあり、その全てが、始まりの一つであったからと。

 英雄達の伝説が初めはそうであるように……
 その始まりは誰の目にも留まる物ではなかった。
 しかし、その伝説の一歩は確かにあった。

 それは、三国対戦が始まる少し前のリスティアから。

 北の平原を治めるは誇り高き騎士の国ユニオン。
 西の森林を治めるは叡智薫る魔法の国アヴァロン。
 東の荒野と山脈より、覇を唱える帝国ログレス。

 そこに一つの、戦乱の時代の幕開けを告げる変革が起ころうとしていた頃。
 伝説の、誰にも知られる事の無い前日譚があった。


    Grand Knights History
――【Episode von Schwarz Loewe】――
    Ep.01バスタード=レーヴェ


 ……雨が降っている。
 北西にはユニオン本土、北東にログレスの要害アラヴィスを臨むこの地。
 荒野広がるベレント鉱山地域から、緑の平原広がるユニオンへと通じる道。
 行く手を遮る壁のようにも、来る物を迎える門のようにも見える森と岩の間。

 ……騎士を乗せ、四頭の馬が走っている。
 先頭を一頭、後方を二頭、その中央の一頭の脇から、場違いな物が時折覗く。
 雨の中、薄汚れた菫色のヴェールと、緩く波打つ金色の髪。
 騎士の腕に守られた、年端もいかぬ少女はログレス帝国の皇女。
 セフィア=ティオレ=ログレスその人だった。

 皇女を抱える騎士が叫ぶ。
「セフィア様、もう少しのご辛抱を、もうすぐ、国境を抜けます!」
 ログレス帝国は今、騎士ファウゼルの起こした謀反による革命の直中にあった。
 この国の版図を首都より遙か西、バルフォグ湖まで伸ばした時の皇帝アルス。
 その代償は、民への圧政と言う形で払われていたから。
 この皇女に罪があるとすればその上で、何も知らず生きていた事だろうか?
 されど、何も知らぬ少女に降りかかるであろう災禍を憂う騎士達がいた。

 そして、彼らには追っ手が差し向けられる。
 後の憂いを断つべくか、民の怒りの矛先か、それを示す文献は無い。
 ユニオン本土まではまだ長い、そんな所で追っ手は間近に迫りつつあった。
 木々が形を潜め、岩肌の目立つ道に出た。
 後ろから、雨音を割って軍馬の蹄が聞こえる。
 もう少し注意深く見たのなら、番えた鏃が光るのが見えたかもしれない。

 ……彼らの向かう先、断崖の上。
 遠目にその様子を伺う、フードを目深に被った外套姿の一団がいる。

 先頭に黒い一人、すぐ傍らに大柄な青と、それよりやや小柄な浅葱色。
 その横、一際小さな黒頭巾とマントの少年が石の上に腰掛け、細い足を投げ出す
 更に離れた場所に四頭の馬を労う桜色がいたが、ここで語る事ではない。

 風がその強さを増した頃、先頭の黒が崖に足を駆けて呟く。
「はっ、ウォルドの騎士も業が深い」
 出てきた名は、今まさに暴君を打ち倒さんとする騎士の名。
 その呟きを聞いた青が問いかける。
「それで、レーヴェ様はどうなさるおつもりで?」
「お前はどうしたい、グレゴ?」
 質問を返された青のフードが捲れる。
 やや角張った顔と、最低限の手入れしかしてない灰色の髪が露わになった。
 女性受けこそしないが、若く人の良い豪傑、そんな顔。
 慌ててフードを抑える青……グレゴリウスに、レーヴェと呼ばれた男が低く笑う。

 そこへ口を挟んだのは浅葱色。
「何も言わず、ということは、手はずはいつものですわね?」
「ユニオンはもう動いてるだろうからな。で、マリーはどうする?」
「まあ、この期に及んでそんな事を聞かれますの?」
 何を今更と口元を抑えて笑うマリー……ハイデマリーに、若草色が続く。
「マジに聞いてるんだったらハブられたコンスタンツ姉ちゃんかわいそー」
「イヴァンとコンスタンツは何しても付いてくるだろうが」
 むしろ逃げ切れる自信が無いわと毒突くレーヴェ。

 グレゴリウスとハイデマリー。
 問いかけられた忠実な従者二人は言う。
「ああ、なるほど。そんな心配でしたらご無用ですよ」
「私達はオルトゥス家に使える騎士で、その血はもうレーヴェさ……」
 マリーが言い終わるより先、皇女一行を連れた騎士が彼らの下を通る。
「じゃ、あとよろしく」
「……って、ああもうっ。いつものことですわね」

 一層激しさを増す雨。軽やかに崖を駆け下りるレーヴェ。
 岩を蹴り、雨を弾く。
 翻るマントの下、赤縁の黒い軽鎧。
 左腕を守るのは小さな、やはり黒に銀縁のラウンドシールド。
 その下に提げた幅広の剣は片手には長く、大剣にしては短かい。
 鞘の根本、紋章があるだろう場所にはきつく布が巻かれている。
 着地の際、右腰のポーチ横に並ぶ投げナイフが、シャラと鳴った。

 暗い空、黒いフード、黒い髪、その下から、深紅の眼が覗く。
「女の子一人に、随分じゃねえの?」
 追跡者の先頭を、弓使いが慌てて手綱を引く。
 レーヴェはそのスキを逃す事無くその手綱を掴み、騎手の足諸共に鐙を踏む。
 手綱を奪うと騎手を他の追っ手の前に投げ、馬を壁になる位置に止めてまた降りる。
 ……向けられる殺気は五つ。レーヴェは応じるように剣を抜く。
 先ほど投げた者が後続の馬に蹴られた。
 まずいと思ったが、聖職者と思しき少女がすぐさま馬から飛び降りる。
 弓使いを抱え上げ、回復魔法を唱える寄り先に後方へ走っていく。
「お、ナイス判断。良い子だね」
 彼女が一度こっちを睨んだように見えたのは、気のせいだろうか。

 ここは、馬数頭が通れないほど狭くはない。
 しかしそれは馬と、レーヴェという障害物が無ければの話。

 剣を片手で担いだレーヴェに、追跡者が声を荒げる。
「貴様、我々を革命軍と知っての狼藉か!」
「あれが誰か解っているのか!!」
「ただの女の子」
 挑発がてらしれっと答えてみたが、罵声はまだ続く。
「貴様ユニオンの手の……!」
「その前に仕事しろお前」
 瞬く間に距離を詰めて、また一人馬上から蹴落す。
 それがいよいよもって開戦の合図となった。

 向けられた切っ先が一つ、穂先が一つ、銃口が一つ、向こう側に魔術の光。
 既に馬を降りた騎士二人が正面と左から躍りかかる。
「ったく、やっとか」
 振り抜こうとする槍を小型盾で流し、掴む。
 体を捻って細剣の切っ先をかわして牽制の一振り。
 細剣使いはすぐさま距離を取っていたが、槍を掴まれた方はそうはいかなかい。
 武器を奪われる事を恐れ力を入れたのは一瞬。
「ほいよっと」
 強張ったその額に剣の束を叩き付けられて昏倒する。
「鈍いな。功を焦った若者とかそんなか?」
 指揮官と思しき、未だ馬から下りぬ男は馬を後ずさりさせながら笑っていた。
「ふ、ふはは……腕が立つようじゃないか」
 レーヴェの目には、遙か彼方に幾つかの灯りが見えた。
 この豪雨であれば、魔術師の灯した物だろうか。
「だ、だが、あの数を相手に凌ぎきれるものか!」

 細剣使いには見る眼があるのか、既に先ほどの威勢は失せていた。
 詠唱中だったはずの魔術師は、警戒の目を向けると怯んでしまった。
 指揮官はとっくの昔に怖じ気づいている。
 最初に昏倒させた狩人と聖職者の姿は見えない。
 レーヴェは視線を指揮官から彼方の援軍と、目の前の剣士へと移す。
 剣士の無言の構え、決死の覚悟を感じるそれは、任務への忠義か。
 レーヴェが腰に手を掛ける。
 ナイフを投げられる前にと駆ける剣士に、小さく詫びた。
「悪いな。その心意気は買ってやれない」

 ……ポーチから取り出した小さな玉が、指先に灯った小さな火で盛大に爆ぜた。

 豪雨の音も霞む轟音。稲光と見紛う閃光。
 吹き上がった煙だけは強まった雨脚に沈んでいったが。

 煙が消えた後にあったのは額を殴られ昏倒した剣士。
 誰が落としたのか進路を塞ぐ大岩。
 それを補強するように地面から盛り上がった岩。
 迂回して追いかけようとしたその時に、彼らは馬一頭失った事に気が付いた。

 ……雨は、その強さを増していく。

 その頃皇女を抱える馬は、山間の洞窟を走っていた。
 先頭の馬、手綱を引く騎士の前席に先ほどまで居なかった蒼髪黒頭巾の少年がいる。
 その表情は少しばかり、硬い。
 洞窟の中を、恐らくは入り口から何かが炸裂する音が響く。
 続いて背後から何かが崩れる音、蹄の音。この洞窟は、音が良く響く。
「驚いた。本当に一人で食い止めてきたか」
「へ、へへ。自慢の兄ちゃんだよ」
 ログレスきっての早馬が、先頭の馬に追いついて右に付く。
 乗っているのは、ずぶ濡れになった黒フードを手で押さえるレーヴェ。

「イヴァン、誘導ご苦労。この道なら少々遠回りにはなりますが……」
「追っ手の進路も限られる」
「はい?」
 素っ頓狂な返事をしてしまった。
 けれどそれは、顔を上げた先頭馬の騎手に先を読まれたからではない。
 先頭馬の騎手、短く整えられた金髪、強い意志を秘めた瞳。
「そして、その進路の一つも君が塞いでくれたようだな」
 御伽話から抜け出たような、騎士の中の騎士。

 皇女救出の最前線にいたのはユニオンの獅子王、レオン=フリードその人だった。

「あ、あの……中央突破かました騎士がいたってー……?」
 レオン王が素知らぬ顔で「私だが」と言うより先、皇女を抱える騎士の声。
「おい、レーヴェッ」
 外套こそ被ってはいたものの、知る声にレーヴェが馬を寄せる。
「何だ、美味しいとこ取りはお前か。アイツはどうした、食い付きそうなもんだが」
「アヴァロンの女王陛下に首っ丈だ」
「ありゃ、相っ変わらずの紳士だねえ……で、お前は夢を叶えたと」

 皇女がお知り合いですかと聞けば、騎士は腐れ縁ですと答え、そして続ける。
「積もる話があるなら後でな」
「え、俺この後ログレス帰るんだけど?」
「は!?」
「嘘、マジで!?」
「そんな……それでは!」
 騎士や皇女は元より、仲間であった少年まで驚愕させた一言。
 特に皇女にしてみれば、己の為に危険な橋を渡ったているだけに。
 馬を並べたレーヴェは、そんな皇女の額にそっと手を乗せる。
「残念ながら私もまた、父王の政に異を唱える者の一人なのですよ」
 いずれ「元」が付くであろう皇女は唇を噛み、それを見てレーヴェは思う。
 ああ、娘の前ではかの暴帝もまた人の親だったのだろうかと。
 それが暴君として裁かれるのを、どのような想いで受け止めるのだろうと。

 気楽な傭兵の顔に、騎士の仮面を被せレーヴェは馬を進める。
 片手で手綱を、片手で抜いた剣を眼前に立て、レオン王がそれに応える。
「騎士王レオン。我らが幼き皇女に、どうか王家の血に恥じぬ道を」
「心得た。黒のバスタードよ、汝の行く先、誇りと忠義の狭間に聖女の加護あらん事を」
「獅子王レオン、貴方の行く先に、聖女の加護あらんことを!」
 互いの剣が交わり、鋼の音が洞窟に心地よく響く。
 剣が離れると同時に少年がレーヴェの馬に飛び乗り、馬は先へ駆ける。

 ……馬は洞窟を抜け、西へと駆ける。
 向かうのは左右から岩棚に狭められた道。
 既にグレゴリウスとハイデマリーが大立ち回りを演じている場所だった。
 魔力を帯びた槍が多数の追っ手を蹴散らせば、側面を狙う者を大剣が捕らえる。
 主の合流に気付いたのは、そんな二人の後ろでひたすら魔法を唱える娘。
「あっ、レーヴェ様ーこっちだよー」
「コンスタンツ、気を逸らすな!」
「はーい……っと、わわっ」
 そこを狙って飛んできた矢をイヴァンが銃で撃ち落とす。
 着弾地点を炎上させる事もある火炎銃の弾。
 それが桜色のフードを焦がし、小さなお下げをしたレモン色の髪を露わにする。

 彼女の横に付けた馬の上にはイヴァン一人、レーヴェは既にその先へ。
「ほい、じゃあ後はいつも通り」
「いつものアレね」
「あ、革命軍に付くから中央突破かも」
「……あらぁ。下手するとファウゼル氏とガチンコですか」
「そんときゃやっぱり」
「いつも通り、ね」
 イヴァンが撃った弾で怯んだ騎士達を、レーヴェが剣の一振り薙ぎ倒す。
 さして威力も無ければ致死性の毒がある物でも無かったが……。
「ねえ、またあの弾? あれって後で恨まれない?」
「じゃあスイカ割りの方が良かった?」
「いやー……これからお勤めするかも知れないのに死人出しちゃダメでしょー」
 弾に詰められているのはべと付く物思いつく限り。
 生理的に嫌な臭いのする物思いつく限り。
 ゴブリンを怯ませる程度の衝撃はあっても子供のイタズラ止まり。
 それに怯む騎士の数が、かの革命家はこの追撃に本腰を入れていないと教える。
「んじゃ、俺あっち登るから」
「あら、一人でお馬に乗れたの?」
「何時までも子供扱いしないでよ、背だって伸びてるんだからね!」
 崖の上へ馬を走らせるイヴァンを見送り、コンスタンツもまた戦場へ走った。

 ……豪雨は霧雨に変わり、いつしか霞が辺りに漂う。

 長剣を両手に振りかぶりレーヴェは駆ける。
 怯む騎士の直中を、暴れ回る従者二人の脇を。
「前衛、防御!!」
 指揮官の声に騎士三人が大剣を壁に。先ほどの者達と同じ轍は踏むまいとする。
 いかな豪腕の放つ一撃とて、受けきってしまえば反撃の機会を取られる。

 そう、受け切ってさえしまえば。

 黒いフードの下で、その口の端が吊り上がる。
 握り締めていたはずの片方が、するりと剣から離れる。
「後衛、防御!」
「ん?」
 先ほどよりも低く、深い声が指示を告げる。
 レーヴェは、その剣が前衛に届くかと言うところで、その間をするりと避ける。
 あっけにとられ、けれど即座にそれに対応出来ずにいた前衛が見たのは……。
「全ての魔力を、ここにィッ!!」
 緑の光に包まれ、槍を構えて突進するグレゴリウス。
 そして、そのやや前傾姿勢の背中にしがみついているコンスタンツ。

 槍術が奥義の一つ、ユニコーンランスと誰しもが悟る。
 岩棚の上にはイヴァンが手綱を取りつつ銃を構える。
 元々備えていた前衛はまだしも、詠唱途中の後衛の対応が遅れた。
 さらに前衛をすり抜けて来たレーヴェに驚き詠唱その物が止まる。
 魔力の光を纏ったグレゴリウスが目前に迫る。
 死を覚悟した魔術師の腹部へ、槍の穂先の代わりに……。

「うぉらっしゃあーっ!!」
 ショルダータックルがめり込んだ。

 突き抜けるような衝撃と、腹から響く鈍い音。魔術師は死を意識した。
 実際胸に入れば、致死に十分な威力があったが。
 地面から浮き上がった魔術師はそのまま払いのけられる。
 それを、グレゴリウスに併走していたレーヴェが受け止め、脇に放る。
 二人が走る先、二度目の指令を出したであろう人物を見つける。
「先行け。コンスタンツはアレよろしく」
「はーい」
「了解ぃっ!」
 再び詠唱を始めるコンスタンツ。
 再び加速しだしたグレゴリウスの前に立とうという命知らずはいなかった。

 走るレーヴェの足下が迫り上がる。
「おっ、とっ、そう言う事してくるかって!」
 誰かがその足を止めようと召喚した岩を足場に跳躍する。
 飛ぶ先は馬上の、鍔についたてのある帽子を被った緑の猟兵。
 その横をグレゴリウスが駆け抜け、崖を降りてきたイヴァン達と合流。
 更に二つ競り上がった岩を盾代わりにハイデマリーが続く。
 レーヴェが猟兵を馬から蹴落としたのは、それとほぼ同時。

 されど落とされた猟兵は、両腕の力だけで体を後ろへ持ち上げ追撃の剣を避ける。
 跳躍の勢いを乗せていたはずの剣が、地に着く前に突きを放つ。
 猟兵が弓を盾の如く用いてそれを流し、細剣の抜刀と同時に急所を狙う。
 それをレーヴェが紙一重でかわし肉薄する。
 しなやかなはずの細剣が、やや大きな長剣を絡めてしなる。

 ……霧はその深さを増し、見えるのは互いの表情ぐらい。

 先に口を開いたのは猟兵の方。
「母の仇でも取るつもりか?」
「いんや、遺言済んだからそっち付こうと思ってたとこ……ろっとぉ!」
 猟兵の細剣が長剣を払い、足払いから横薙ぎに続く。
 それをレーヴェの剣が受け止める。
 鋼の擦れる音が響く。

 ……霧は、その場にある全てを白に埋めていく。

 白の中、鋼の鳴らすリズムを踊る緑と黒。
「騎士ファウゼルに近しい者とお見受けするが?」
「さあ、どうだろうな」
 猟兵の細剣が黒いフードを切り裂く。
 レーヴェが振りかぶって牽制するも、距離が開く気配は一向に無い。
 紙一重でかわしたと思った剣は、鞘に巻かれた布を裂いた。
 黒い鞘に、銀獅子のエンブレムが鈍く光る。

 無数に迫る剣閃をいなしつつも、レーヴェは言う。
「少なくとも、密偵を任される程度には」
 猟兵が微かに眉を動かす。
 霧の中でも、それを見逃さぬ目がレーヴェにはあった。
 度重なる牽制で距離を取れぬと悟り、剣を絡めたまま肉薄する。
「うちのメイド長、まんざらでも無いらしいぜ?」
 露骨に嫌な顔をした猟兵は、すぐに冷めた表情に戻る。
「アレが口利き程度で動く男に見えるか?」
 猟兵が迫る剣を受け流し、立て続けに振るう剣がレーヴェの手足を掠める。
 早さに勝る分、猟兵の方に分があった。
 殺傷を戒めている事を差し引いてもレーヴェには荷の重い相手。
 それを悟った騎士の一人がその背後を取ろうとして、裏拳であっさり沈む。

 軽口を叩くレーヴェはその実、少々後悔していた。
「報告ぐらいはしてるよな?」
 その一言一言の間にも剣閃は容赦なく、急所を逸らすので精一杯。
 殺す気で掛からねば互角など夢のまた夢。
 騎士ファウゼルに仕える中でも、最速と名高い猟兵とあれば。
 いやむしろ、この舞踏を楽しんでいるのは相手の方か。

 三度目の鍔迫り合い。
 互いの顔に、有るか無しかの笑みが浮かぶ。
「……お前の素行については報告済みだ」
「じゃ、後は自分で売り込んで来るわ」
 鎬を削り合う剣がするりと滑り、レーヴェが猟兵の脇を抜けていく。
 猟兵が振り返ったのは見送るべくか、逃すまいとしたのか。
 けれども、黒い影は濃霧の奥へ融け込むように消えていき……。
「ジャッジメントいきまーすっ」
「!?」
「んなっ!?」
 遙か霧の向こうで、レーヴェが「いや、大丈夫だから!」と叫ぶ声。
 この濃霧が魔術による作為的な物と彼らが悟るのとほぼ同時。
 無慈悲に駆け抜ける稲光に、殆どの物が麻痺の症状を呈して膝を付く事となった。
「あ、い、つ、ら……」
 あの猟兵も含めて。

 ……時は、三国を戦乱の世に招く革命の直中。

 これまでに幾らかが灯り、掻き消えてきた火。
 此度の火は消えず、炎と化してそのまま帝国を飲み込む事となる。
 それに惹かれたのは、これまでの支配に異を唱える者ばかりではなかった。
 腕に覚えのある者、名誉を求める者、様々が加わり混成軍の様相を呈していく。

 黒のバスタード。
 そう呼ばれた男を長とする傭兵団もまた、そんな一団の一つとして。
 それより先に彼らの所行を既に耳入れていたファウゼルの言葉は、一つ。
「好きにさせておけ」
 それだけだった。

 それから程なく、皇帝側の隊から離反した者の情報により戦況は急進する。
 革命はなされ、その功績から騎士ファウゼルは王位を継承。
 疲弊していた国は、それでも新王誕生の祝福に湧いた。
 けれどもそこに、黒髪の傭兵の姿は無かったと言う。
 ログレスの内政が安定した後、ファウゼル王は大陸へ覇を唱える。
 ユニオン王国は皇女セフィアを旗印にログレスへ進軍する。
 アヴァロン女王国は、この機に乗じてかつて帝国に奪われていた領土を奪還。
 誰の、どれが最初かは定かではない。
 けれども、リスティア全土を巻き込む戦乱はここから始まった。

 それから、数ヶ月後。
 各国が数度の戦を経験した、その頃。

 ……ログレスの城塞前広場。
 今日も腕に覚えのある者達が騎士を目指し模擬試合大会が行われている。
 それを見下ろせるバルコニー。
 風に揺れるのは鋼色の髪と赤の外套。
 赤い肩当ての上、羽毛に飾られた竜の頭蓋がガラリと鳴る。
 ログレス国王となった、かつての騎士ファウゼルがそこにいた。

 多くの騎士が鎬を削る中、王の眼が一点にに留まり、傍らの兵に尋ねる。
「ほう……大暴れしている生きの良い奴らがいるな。おい、あの隊は誰が頭か」
「は、暫しお待ちを。ありました名前は……」

 兵士がその名を口にし、王が眼を細める。
 その間に走る大きな傷はいつの物か。

「ふん、あいつか。あれから何処へ雲隠れしたかと思えば……アレが指揮官か」
 鎬を削り合う騎士の一団。その一つ後ろに、見紛いようの無い黒髪が確かにいた。
「どういう風の吹き回しかは知らぬがなるほど、期待出来そうじゃないか」

 そして、大会の優勝者達が謁見の間に通される。
 大会において、一際の異彩を放っていた黒髪黒鎧の騎士が王の前に傅いた。
 その肩に王は剣を添え、宣言する。
「ログレスの王は、レーヴェ=ソリス=オルトゥスを騎士団長に任命する。騎士団の名は……」

 ソーリス騎士団。

 後に、黒獅子隊と呼ばれる騎士団の結成である。
スポンサーサイト



コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
ぶつくさ



ブログ内検索
カレンダー
08 | 2019/09 | 10
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -
カウンター
ブロとも申請フォーム